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戦陣の断章 第六十五旅団「夏兵団」
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戦陣の断章

読んでくださる方に

「けさも軍隊の夢を見たよ。」と、とりとめもない断片的な夢のくだりを話す。
皆が整列を終わっているのに巻脚胖(ゲートル)が巻けない、巻き終われば今度は自分の銃が見つからないといったイライラ場面から、猛訓練を受けた久留米の予備士官学校を訪れて懐かしがったり、戦場だったところにまた行かねばならなくなったりという具合だが、夢のこととて現実ばなれしていることはいうまでもない。

僅四年半、今振り返れば取るに足らない年数である。

軍国調のいやが上にも満ちあふれていた当時、健康な男子であれば避けて通れない関門ではあったが、私にとっては軍隊生活は誇り高き男の生き場所とさえ思った。 もっとも職業軍人のせがれとしての血が騒いだのかも知れない。

しかし、いまだにこれだけ瀕繁に軍隊時代の夢を見るということは、最も感受性の高かった青春時代に体験してきた将校生徒としての激しかった猛訓練やらタマの下をくぐってきた戦闘やらが強烈に脳裏に焼きついている証拠だろう。

最近とみに記憶力が低下して自分ながらあきれかえっているが、せめて夢ではない本当だった話を今のうちに残しておかなければと思いメモしはじめた。ところが、日時に関することはもちろんのこと、距離感、果ては場所などもことごとに忘れている。せめて実話の一部でも書けたらと思いつつ筆をとった。

この記録は人に読ませる「著書」でもないし、血なまぐさい戦記でもない。私の体験した失敗談やらこんなこともあったなあといったエピソードなど、いわば日附けのない自分のための日記帳である。

歳成らば燃ゆるひとみに 吾が子読む 父らゑがきしラバウルの史を

という立派な歌が終戦後現地で読まれたが、戦史でもないからこういう大げさな意図も毛頭ない。

復員までの僅かの期間に記録しておいたメモと持ち帰った何冊(枚)かの資料は記憶を呼び起こすのに役立ったが、今にして思えば何にもかけがえのない宝を持って帰ったものだと思っている。大切に保存するつもりであり、文中ところどころでそれらを引用した。

戦争はもうこりごりだ。しかし私の戦争体験は死ぬまで私の脳裏から離れないだろうし、死んだらおしまいなので活字にして残して置くことにした。記憶違いも多々あることと思われる。

この記録を、還暦誓い一初老の思い出話しぐらいのおつもりで読んでいただけたら幸せである。

と き 昭和十八年一月十四日より昭和二十一年5月十七日までの間。

ところ 日本を南へ約四、五百キロ、赤道を超え南緯四度のあたり。ラバウルのあるニューブリテンの戦場。

元歩兵第百四十一連隊(原隊 広島県福山市)
元陸軍中尉 塚本 博利 記 昭和五十四年冷夏の終戦記念日に

第一章 着任申告 第十六章 方向おんちのこと
第二章 ラバウル蛍 第十七章 金槌のこと
第三章 侍従武官御差遣のこと 第十八章 熱帯魚のこと
第四章 現地訓練のこと 第十九章 決戦用被服のこと
第五章 マラリア防護工作こと 第二十章 ドラムカン風呂のこと
第六章 駆逐艦輸送のこと 第二十一章 幹部候補生教育のこと
第七章 「真野兵団長の軍刀」のこと 第二十二章 錦ヘビのこと
第八章 夏兵団命令のこと 第二十三章 ラッキーストライクのこと
第九章 フィンシハーフェンのこと 第二十四章 軍旗祭でのこと
第十章 うなぎの寝床のこと 第二十五章 豪軍援助作業のこと
第十一章 マングローブのこと 第二十六章 演劇団編成のこと
第十二章 戦場異常心理のこと 第二十七章 復員準備教育のこと
第十三章 ヘリコプターのこと 第二十八章 アスパラガス缶詰のこと
第十四章 歯骨膜炎のこと 第二十九章 ねんざのこと
第十五章 戦陣中閑ありのこと 第三十章 戦陣の断章のこと
いま振り返って