「戦史叢書に見る戸伏大隊の健闘」


 大隊は戦車の出現を予想していた。

 十三日頃から戦車らしい機関音が岬の先端から聞こえてきていたのである。 大隊は飛行場の掃蕩の際、鹵獲した対人地雷約三○個を戦車の主攻を予想する 左第一線中隊の正面に埋めた。地雷の数が少ないので右第一線中隊正面は、 鹵獲した有刺鉄線を一条張った。 昭和十九年一月十六日(叢書には十二月とあるが正しくは一月)は、 日本内地の秋を思わせるような好天気であったが、早朝からB-25を主体に、 B-24、P-38など約五十機による爆撃が始まった。 地軸を揺るがす炸裂音と壕内に吹き込む爆風、閃光で、狭い陣地は覆われた。 時間は二十分ほどであったが、 戸伏大隊の将兵には二時間にも三時間にも思われる 長い時間に感ぜられた。 爆撃が終わると 今度は戦闘機による掃射が始まった。 そしてこれに呼応するように砲兵と迫撃砲の集中射撃が開始された。 戸伏少佐が壕から顔を出してみると、付近の樹木はみな倒れて、 大隊本部の周辺には10m間隔で大きな漏斗孔が出来ていた。 第一線中隊の方を望むと、陣地をとっていた椰子林がどこかに吹き飛んで、 黒い焦土と禿げた丘が硝煙にかすんでいた。戸伏少佐は息をのんだ。 この時大隊砲分隊長が報告に来た。爆撃の為大隊砲が破壊され第一線両中隊は 全滅に近い損害を受け、敵戦車が突入してきた事などを 順序不同で上ずった調子で報告してきた。 激しい米軍の銃砲声の間に、かすかに九二式重機関銃独特の射撃音が聞こえる。 第一線はまだ残っている。 と思う間もなく戦車のキャタピラの音が本道方向から聞こえ出した。 米軍は約500ヤードの攻撃正面に戦車10台を展開していた。 各戦車には歩兵約一個分隊が随伴している。 戦車は軟土や爆弾孔にはまり込んで、その前進は緩漫であったが、 徐々に戦果を拡張していった。 左第一線中隊は砲爆撃で陣地の右翼の火網の欠陥が生じた。 しかし、埋没した対人地雷が爆発するので米軍に脅威を与え、 戦車の行動は消極的になり、遂には停止しもっぱら射撃だけとなった。 しかし、本道沿い両中隊の中間地区を突進した戦車が、 瞬く間に大隊砲分隊の陣地を蹂躙してきた。 そしてその一部が左第一線中隊の背後に回る態勢になった。 右第一線中隊の正面は、配属機関銃小隊等一部の火器は機を失せず射撃を開始。 しかし主力は壕から乗り出して火力を発揚する時期を失し、 戦車に陣地侵入を許してしまった。 混戦乱闘、陣地の大部分は米軍戦車に蹂躙された。 勇敢に射撃していた機関銃小隊も混戦のうちに玉砕した。 大隊本部正面には二両の戦車が突進してきた。 予備小隊の約30名が陣地から射撃を開始した。 (これは第一大隊本部副官塚本少尉指揮によるもの) 各部将校や伝令まで、全員が火力を集中した。 擲弾筒分隊長が前進してくる戦車の正面にどっかと座って、 背中に背負う背嚢を腹にあて、擲弾筒を水平にして敵戦車目掛けて発射。 勿論貫通はしないが、命中の衝撃に驚いた乗員は、戦車の天蓋を開けて脱出 勢いを得た予備小隊は第二の戦車に対しても同様の攻撃を加え侵入を阻止した。 右第一線中隊正面も混戦のうちに米軍戦車二台、陣地後方の湿地に突っ込んで 進退不能に陥った。この戦車から乗員が脱出するのを見て第二中隊が攻撃、 戦車を炎上させた。 そして午後三時ころ、狂ったような弾幕をはって米軍は撤退を開始する。

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